特許審査官の気持ち
私は新卒で特許庁に就職し、約7年、特許審査官(審査官補含む)として働いていました。
当時は、同僚である審査官が周りに沢山いて、審査官という存在は珍しくもなんともありませんでした。
ただ、審査官を辞めた後、「え、審査官出身なんですか!」といった反応を受けることが多かったです。
その時に、審査官というのは知財業界において希少な存在と知ることになりました。
また、特許事務所や企業の方が拒絶理由通知の応対をする際、審査官の指摘を大げさに言えば神の啓示のように受け取り、審査官の機嫌を損ねないように指摘された通りの補正を行おうとするケースを目の当たりにしてきました。
審査官の置かれている状況や審査官の気持ちを知ることで、特に特許事務所は企業知財部の方は、権利取得の心構えがだいぶ違ってくるのになぁと感じる機会が多かったわけです。
審査官も一人の人間であり、その判断が絶対的なものでもないことを知ってることで、拒絶理由通知の応対に変に委縮することなく、知財業務にあたっていただければと思います。
なお、この記事は特許に焦点を当てて書きますが、意匠や商標でも同様のことが言えると考えます。
目次
- どんな人が特許審査官になるのか
- 審査官はどんな働き方をしているか
- 審査官は特許査定を出したくてたまらない
- 自信満々な拒絶理由などない
- まとめ
どんな人が特許審査官になるのか
特許審査官はほぼすべての人が理工系の大学を出ています。
2割が学部卒、7割程度が修士卒、1割が博士卒といったイメージです。
性格は、大人しく控えめな性格の人がどちらかと言えば多い印象です。
理系出身の方は、大学の研究室にいるような方をイメージすると分かりやすいかもしれません。
コツコツと毎日実験を積み重ねることができる真面目なタイプの方が、特許審査官には多いイメージでした。
有名大学の出身者が多いため、事務処理能力が高い人が多かったです。
特許審査官になるには国家公務員試験をパスする必要がありますが、試験合格後には、様々な省庁を選択可能です。(採用されればですが)
理工系なら、国土交通省、経済産業省、総務省などが大きな受け皿になると思います。
そんな中、あえて、特許庁での特許審査官を選ぶ方は、ワーク一辺倒というよりは、ワークライフバランスを重んじる価値観が多いのかなと思います。
経済産業省などの他の省庁へ入ると、200時間残業を強いられるなど、プライベートの時間を確保することが困難であるのに比べ、特許庁は日をまたいだ残業などは基本的にありません。
あとは、技術に加えて、法律や語学など新しいことを学ぶことが好きで知的好奇心が高い人が多かったです。
なお、審査官を一定年数こなすと弁理士資格が取得できるため、その点に魅力を感じている方もいるでしょう。
審査官はどんな働き方をしているか
審査官の仕事は、特許出願の審査です。
ここで、意外に思われるかもしれませんが、審査官にも処理量のノルマがあり、年間で〇ポイント、月間で〇ポイントというようにノルマが定められています。
そして、ノルマの達成度合いが、昇格やボーナス額、異動、留学なども関連してくるとが想像できると思います。
ノルマが達成できず、精神的に結構追いつめられる方もいると聞きます。
そのため、特許出願1件の処理にかけられる時間は限られているのが現状です。
このように、審査官は、限られた時間で、先行文献を調査し、拒絶理由がないか確認、起案をこなしてます。
審査官は特許査定を出したくてたまらない
特許事務所や企業知財部にいると、特許審査官は、その権限にものを言わせて、拒絶理由や拒絶査定を通知してくる憎き敵のような存在に感じることがあるかもしれません。
しかし、上述したように、審査官は処理ノルマを課せられています。
そして、拒絶理由通知や拒絶査定と比較して、特許査定はその理由を長々と記載する必要がありません。
特許査定する方が、拒絶理由通知や拒絶査定よりも圧倒的に楽なのです。
審査官は「はやく特許査定にして案件から解放されたい」という誘惑に駆られながらも、拒絶理由がないか目を凝らしているのが現状です。
ですので、審査官が特許査定することを手助けしてやろうというくらいの気持ちを持って、拒絶理由通知などの対応をすると良いと思われます。
自信満々な拒絶理由などない
審査官は、一応の論理を構築できると判断すれば、進歩性違反やサポート要件違反などの拒絶理由を通知します。
しかし、その判断に絶対の判断を持っているかと言えばそうではありません。自信100%で拒絶理由通知を書いているケースはほとんどないと言ってよいです。
審査官は、研究開発の現場にいるわけではありません。
特許出願書面に記載されていることから判断しなければならないので、常に情報不足です。
なので、「とりあえず拒絶理由を出して出願人の反応を伺ってみるか」というくらいで拒絶理由を通知しているケースも多いです。
私が審査官をしていた時、正直根拠が乏しかったかなという拒絶理由通知に対して限定的な補正がされており、きちんと意見書で反論してもらえば補正しなくとも特許査定にできたかもしれないのにと感じるケースもありました。
意見書のみが不安であれば、事前に補正案をメールやFAXで審査官に送付すれば意見をもらえます。
もっと審査官とコミュニケーションを積極的にとればよいと感じます。
私は事業会社に転職した際、かなりの面接審査をこなし、必要以上の補正をすることなく、権利化に持ち込んだ経験を有しています。
重要な案件であれば、積極的にメールでの補正案確認や面接審査を活用しましょう。
まとめ
● 審査官も人の子。限られた時間の中で処理をしている。
● 審査官も拒絶理由に絶対の自信を持っているわけではない。
● 審査官が特許査定をすることをアシストするくらいの気持ちを持つと上手くいくかもしれない。
以上、ご参考になれば幸いです。